ネーデルラントの喫茶店

思い出を積み重ねていくように、私は今日も珈琲をいれる。ここはオランダ、港町の喫茶店。

●作品紹介

朝に淹れる珈琲は、一日の始まりを告げる特別な存在。
自分の心と体の調子を確認するように、ゆっくりと静かに過ごす朝。ここはオランダの港町にあるカフェ、その名も「KISSATEN」。
「おはよう」。やってきたのはペーター。彼は商店街では知られた存在。来る日も来る日も、商店街の一角にずっと立っている。聞くところによると彼は心の問題を抱えていて、家で一人にならないように「ここに立っている」のだという。
――私は想像することができる。いつの日か彼がお店に来て、一緒に朝の珈琲を飲みながらおしゃべりをする時間を。その美しい光景を。
ここに来てから私は多くのことを想像できるようになった。それはどうしてだろう。海辺の町で珈琲をつくりながら、私はいつも考えるのだ。

●登場人物

トホ
カフェKISSATENの店主。わけあって日本の東京からやってきた。
モヤシ
「KISSATEN」の看板犬。ウクライナで生まれ、戦禍の中で保護されてオランダにやってきた。

作者プロフィール

犬吠徒歩

昭和ギリギリ生まれ。
テキスタイルデザイナーとして6年間会社勤めをしたあと、いろいろあって日本を離れる。カナダ、ポルトガルと移住した末に、オランダの港町に定住してカフェを開業。商店街の人々に囲まれて、日々慌ただしくも楽しく暮らしています。